彼の名前は「わたる」と言った。
名前も可愛いが、本人も可愛かった。
先輩達にとても可愛がられている子だった。
少し、西洋人のような目元が今でも印象に残っている。
私が唯一、名前を呼び捨てで呼んでいた男でもある。そして2人で撮った写真を捨てずにいるのも彼だけだ。

突拍子もない事をする子だった。
部活の後輩だった彼は学祭の日に突然こういった。

「一日彼女になってください」

断り続けてもあまりにも真剣に何度もそう言うので、いいよ。と笑って答えた。
学祭の催しの景品の大きなぬいぐるみのくまさんが可愛かったので
「可愛い〜」
といったら、本当にその地獄の様なまずいモノを食べ続ける大会に出た。

そして見事に優勝した。

私は遠くからそれを眺めていただけだった。
一緒に見ていた友達が
「本当に優勝しちゃったね」
と苦笑いしていた。

ゲットした大きな白と茶色の2匹のくまのぬいぐるみ。
彼は最前列で見ていた小さな女の子に茶色のクマをあげた。
そして残った白いくまのぬいぐるみ抱きしめながら、私の傍まで走ってきて

「これあげます」
と笑って言った。

学校の帰り道、手を繋がせてというので、手を繋いで帰った。クマを片手で抱いていたら
「鞄重いでしょ?」
そう言って私の鞄を持ってくれた。
持って帰るの恥ずかしいでしょ?
そう言って、学校から私の実家の最寄り駅まで1時間半の道のりをついてきた。

翌日の帰りも私が帰る支度をしたらついてきた。

私はその可愛さにやられて、年下の男の子と付き合うことになった。

彼は部活のために学校の傍の寮に入っていた。
帰り道が同じ方向などでは決してない。
それでもその日からほぼ毎日彼は私を駅まで送り続けた。

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